株式会社パテント・リザルト アナリスト 榎本 健悟
今回は、特許の質的な観点を考慮に入れ、各社の競争力を分析します。そこで、リチウムイオン二次電池市場の特許出願において、どの企業がどのような競争力を持っているのかを調べるため、特許の"注目度"を指数化した指標「パテントスコア(※1)」を使いました。ここでは、各出願人(企業など)が出願した個々の特許についてパテントスコアを算出し、出願人の特許群の中で一定の値以上のパテントスコアが付与された特許を合算した「出願人スコア」や、出願件数情報とともにグラフ化した「出願人スコアマップ(※2)」を作成しました(図表1)。
各企業が出願した特許群の総合的な強さを反映した出願人スコアでは、パナソニック・三洋電機・ソニー(出願件数ランキング/「有効+出願中」特許件数ランキング共に上位3位)が、他出願人を大きく引き離していることが分かります。3社の総合力は拮抗状態であるものの、リチウムイオン二次電池を1991年に世界で初めて製品化したソニーが僅差でトップとなっています。同社は、リチウムイオンを吸蔵・放出するための電極材料(活物質)や、電解液材料に関して優れた技術を有しています。
各企業が出願した個別特許の強さ(注目度)を反映した出願人最高スコアでは、三井金属鉱業が「(グラファイトよりも高容量の材料であるSn系物質やSi系物質からなる負極活物質を有する)非水電解液二次電池」、日立マクセルが「(リチウムイオン二次電池の電解液としても用いられる)有機電解液電池」で注目度の高い特許出願を行っています。また、出願人最高スコアのランキング上位には、トヨタ自動車、日産自動車などの自動車メーカーも含まれまています。トヨタ自動車は「電源システムおよび車両」、日産自動車は「組電池の電圧制御装置」について強みを有しており、両社共に「電池の充放電・保護回路」関連の技術
開発に注力していることがうかがえます。
ここで、リチウムイオン二次電池市場で権利化された特許に着目して、各権利者の特許権利状況(2009年8月末時点)を見てみましょう。
図表2に、登録公報における現在の権利者情報に基づいて作成した「権利者マップ(※3)」を示します。なお、それぞれの図表の特徴および図表間の対比は図表3のようになっています。
各権利者の特許資産としての総合力を反映した「特許資産の規模」では、図表1と同様に、パナソニック・三洋電機・ソニーが他権利者を大きく引き離しています。3社の中でも特に強みを有しているのがパナソニックであり、有効特許件数1位の三洋電機を抑えてトップとなっています。同社は、リチウムイオン二次電池用電極および電極製造技術、充放電・保護回路技術など幅広い技術要素で強みを有しています。また、強みを有している技術要素については、出願日が2000年代後半の登録特許も多く、近年の研究開発に基づいた特許権利化意欲が非常に高いことがうかがえます。
出願人スコアマップ(図表1)と対比して、権利者マップ(図表2)でランキングが上昇(※5)した注目企業の1つが戸田工業です。同社は、富士化学工業から複数の特許に対して権利譲渡を受けており、「非水電解質二次電池用正極活物質及びその製造法」などで質の高い特許を保有しています。同社は、リチウムイオン二次電池の正極材料メーカーとしてグローバルな事業を展開しており、昨年はリチウムイオン二次電池用電極に関する米国特許のライセンスも取得しています。また、2009年8月には米国に正極材の生産拠点を建設することも発表(※6)しており、特許業界のみならず、リチウムイオン二次電池市場全体でも注目されている企業の1つです。
次回は、注目すべき企業がどの技術分野に強みを有しているのかなど、パナソニック、三洋電機、ソニーなどを取り上げ、企業別に解説していきます。
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