株式会社パテント・リザルト アナリスト 榎本健悟
前回は、リチウムイオン二次電池の主要な構成技術(注目技術)に対して、エレクトロニクス業界・自動車業界を代表するそれぞれ3社の「(出願人単位で見た)技術領域ごとの注力度合い」の比較を行いました。今回は、リチウムイオン二次電池市場で技術競争力を有する企業ごとの技術領域別シェア(※1)から見た、参入企業の競合状況を調べていきます。
図表1は、注目技術の出願人スコアから見た技術領域別シェアを示しています。なお、技術領域ごとの出願人スコアの合算値が高い上位の企業群(調査対象企業のうち、40社程度)は色付きで表示しており、合算値が低い企業群は灰色にまとめて表示しています。ここで「【2G016】遮断器と発電機・電動機と電池等の試験」「【4G002】鉄化合物(I)」「【5G301】導電材料」、および「5H」シリーズから始まる技術領域など、電池の測定技術や電池の生産技術に関する分野では色付きの企業群のスコア合算値が「50%以上」となっており、技術力を有する企業間の競争が激しいことが分かります。一方、「【4G071】りん、その化合物」「【4G146】炭素・炭素化合物」「【4J002】高分子組成物」など、電極材料や電解質材料に関する分野では、その他企業(図表中、灰色の企業群)の割合が特に高く、材料メーカーや研究機関からの特許出願が目立ちます。
ここで改めて、エレクトロニクス業界・自動車業界を代表するそれぞれ3社の競合状況を、技術領域別シェアから見てみましょう(※2)。図表2に、業界別に見た各社のレーダーチャート(技術領域別)を示しました。
エレクトロニクスメーカー3社は共に、シェアが10%以上の技術領域を多く保有しており、リチウムイオン二次電池の主要な構成技術全般で強い競争力を有しています。 一方、特に高いシェアを有する技術領域は3社間で異なっており、各社の特徴に明確な差異が表れています(図表3)。
自動車メーカー各社は、主要なエレクトロニクスメーカーと比較すると、技術領域別シェアは全体的に高くはありません。しかし「【2G016】遮断器と発電機・電動機と電池等の試験」「【5G503】電池等の充放電回路」「【5H011】電池の電槽・外装及び封口」「【5H043】電池の接続・端子」などでは他の技術領域と比べてシェアも高く、調査対象に含まれる他企業と相対しても、電池の性能評価や充放電・保護回路に関する技術で競争力を有している様子がうかがえます。
このように、リチウムイオン二次電池市場全体から見た主要な企業間の技術領域別シェア分布状況を整理する事で、出願人単位で見た注力分野の把握(企業分析)のみならず、技術領域ごとの競合状況や分析対象企業における他社排他力の把握(競合分析)も可能となります。次章以降は、これらのデータを基に技術領域別のアライアンス効果を評価した事例として、リチウムイオン二次電池市場から見たパナソニックと三洋電機の経営統合効果を検証していきます。
パナソニックは、2008年11月に三洋電機の子会社化に関する資本・業務提携を発表しており、2009年11月5日から12月7日まで、三洋電機株式の公開買い付け(TOB)を行っています。ここで、両社の協業によるシナジー効果として、「①パナソニックのプラットフォームを活用した三洋電機の太陽電池事業の増販」、「②三洋電機の生産技術とパナソニックの高容量技術を組み合わせた二次電池(特にリチウムイオン二次電池)の商品力強化およびHEV用電池における連携強化と拡販」などが期待されています。このような経営統合による効果は、市場シェアや売り上げ規模を合算することでも 大まかに推測する事が可能ですが、ここでは技術競争力から見た統合効果を検証していきましょう。
図表4に、今までの分析結果(ex.図表1、図表2)を基にした、パナソニックが三洋電機/ソニーをアライアンス先とした場合の技術領域別アライアンスの効果 を示します。アライアンス先が三洋電機の場合は、(図表中、上から順に)「【4G002】鉄化合物(I)」から「【5G301】導電 材料」までの、主に電極材料・電解質材料に関する技術領域のアライアンス効果は高くないものの、「【5G503】電池等の充放電回路」から「【5H050】電池の電極及び活物質」までの、主に電池の生産技術に関わる技術領域のアライアンス効果は非常に高いことが読み取れます。一方、アライアンス先がソニーの場合は、三洋電機の場合と比較して「【4G002】鉄化合物(I)」「【4G048】重金属無機化合物(2)」「【4G071】りん、その化合物」「【4G146】炭素・炭素化合物」や「【5G301】導電材料」など、主に電極材料・電解質材料に関する技術領域でのアライアンス効果が高いことが分かります。
このように、企業ごとのアライアンス効果を調査対象に含まれる全企業に対して集計し、調査対象の構成技術全体を通じてお互いの強弱を補い合う効果を数値化した「技術補完度」を横軸に、特定の技術を強める効果を数値化した「技術深耕度」を縦軸でマップ化したものを図表5に示します(※3)。
リチウムイオン二次電池の構成技術全般の技術補完度は、(パナソニックの技術領域別シェアが相対的に低い)電極材料・電解質材料に関する技術領域の補完関係も高いソニーがトップとなっています。一方で、リチウムイオン二次電池の注目技術における技術深耕度は、「【5H017】電池用電極の担体または集電体」や「【5H040】電池及び電池容器の装着・懸架」での深耕関係が高い三洋電機がトップとなっています。
企業間の技術提携などが実際に行われる場合は、
など、さまざまな視点から統合効果の検証が行われます。リチウムイオン二次電池市場から見たパナソニックと三洋電機の経営統合効果の検証においては、上記視点のうち下2つが重視されたと読み取ることができます。このように、特許情報を活用することで、経営統合やM&A、業務提携などにおいて、無形資産を含めた企業評価を行うことも可能になります。
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