株式会社パテント・リザルト 専務取締役 関野 勝弘
連載第1回目では、日本企業がかかえる問題点のひとつとして、出願・研究開発コストに見合う特許活動がされていないことを指摘した。今回は、その裏付けとなる資料を提示しつつ、加えて、現状の打開を図る具体的な企業の取り組みに言及したい。
まずは、米国の特許市場における日本企業のプレゼンスと現況について説明する。2008年度の米国における特許申請件数は38万件。なんと、そのうち28%は日本企業によるものである。特許申請件数トップ30社のうち、第3位のキヤノンをはじめ、日本企業は13社と半数近く占めており、米国籍企業は12社、韓国は2社、ドイツは2社、その他は2社となっている。
このように、日本企業の特許申請件数が多いことはすばらしい。ただし、「質」が伴っていればの話である。下表は、米国市場における国別の登録済特許累計件数と、その中で再審査請求を受けた件数のシェアを示したものだ。価値ある特許は当然他社から攻撃を受けるが、日本からの特許は「再審査請求」の形でのアタックを受ける比率が極端に低い。高いコストをかけて米国に特許申請しているのに「価値のある特許」の比率が低いと判断されても然るべきかと思われる。
国名 | 2009年末 登録済特許 |
シェア (%) |
再審査請求 (件数) |
再審査請求率 (%) |
---|---|---|---|---|
米国 | 1,027629 | 52.6 | 4,109 | 0.40 |
日本 | 425,481 | 21.8 | 399 | 0.09 |
その他 | 580,043 | 25.9 | 866 | 0.17 |
また、いったん特許申請した後も、特許を維持するためには「年金」と言われる維持コストが発生するため不要な特許は放棄されるものの、日本企業は米国企業に比べて放棄比率が2~3割低いことが知られている。米国の特許申請については、翻訳コストをはじめ、特許申請・維持コストが高いにもかかわらず、「やたら」申請しているのではないかと類推されても仕方のない状況にある。
その中で、この4半世紀におけるトヨタの特許戦略の歴史は、ある程度参考になるだろう (2009年刊行・「知財、この人に聞くvol2・トヨタ歴代知財部長」参照)。江崎元知財部長が記しているように、トヨタは1985年までは研究開発促進のために「件数」ベースでの特許出願を社内で推進し、1980年に日本国内で4000件前後だった1年当たりの出願件数を、1984年にはほぼ倍増させた。しかし、1985年にスタートしたゼネラルモーターズとの特許訴訟に際し、「クロスライセンスしようと思っても、件数ばかりで、全く『持ち弾=価値のある特許』がないことに気づいた」とコメントしている。
その後、そのような事態を反省し、特許出願について「量」から「質」への転換を社内に根付かせ、数的なボトムであった10年後の1995年には、1984年時点の半数以下である3000件まで絞って、質とコストの両立を図った。現在では、ハイブリッド車やEV車に代表される新しい技術的なパラダイムの発生により、出願件数は再び増加傾向にあるものの、米国のライバル会社(ゼネラルモーターズ)との特許訴訟を通じて「量」から「質」への展開を早めに企図したトヨタの戦略は参考になろう(2009年におけるトヨタの米国特許取得件数は532件、ゼネラルモーターズは531件、ホンダは774件と少な目であり、トヨタの企業規模や日本での特許登録件数等からすると、他の日本企業に比べて絞込みが拝察される)。
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