弊社はこのほど、国内に出願された水素貯蔵・圧縮関連技術について、特許分析ツール「Biz Cruncher」を用いて参入企業に関する調査結果をまとめました。
2011年1月、自動車メーカー3社とエネルギー事業者10社が「燃料電池自動車の国内市場導入と水素供給インフラ整備に関する共同声明(注1)」を発表してから3年が経過し、水素をエネルギー媒体として流通させる「水素社会」実現に向けた技術開発が着実に進んできています。また政策面でも、水素社会実現に向けた取り組みが継続的に進められています(注2)。そこで本調査では、水素貯蔵・圧縮関連技術(注3)の特許を抽出し、各個別特許の注目度を得点化する「パテントスコア」をベースとして、特許の質と量から総合的に見たランキングを作成しました。
その結果、「総合力ランキング(注4)」では、1位 トヨタ自動車、2位 本田技研工業、3位 日本製鋼所という結果となりました(表1、図1)。
【水素貯蔵・圧縮関連技術 特許総合力トップ5】(表1)
順位 | 企業名 | 総合力 (権利者スコア) |
有効特許件数 | 個別力 (最高スコア) |
---|---|---|---|---|
トヨタ自動車 | 899.8 | 259 | 75.2 | |
本田技研工業 | 446.1 | 148 | 69.9 | |
日本製鋼所 | 165.5 | 36 | 76.0 | |
BIC | 147.2 | 17 | 67.7 | |
東京ガス | 119.8 | 20 | 72.8 | |
図1:水素貯蔵・圧縮関連技術 競合状況
1位トヨタ自動車の注目度の高い特許には、「放熱性の異なる複数のガスタンクに対して過充填又は充填量不足を抑制するガス充填方法」に関する技術などが挙げられます。また後願特許への拒絶理由通知回数が多い特許は、「特別な流通体制を新たに確立することなく、手軽に水素を取り扱えるようにする水素充填技術」となっており、今回の調査対象範囲内で基本的な技術であると考えられます。
2位本田技研工業は、「内部に充填されるガスの圧力が上昇しにくい高圧水素ガスタンク」に関する技術などが注目度の高い特許として挙げられます。
3位日本製鋼所は、「水素吸蔵合金含有樹脂組成物」など、水素貯蔵材料に関する技術で強みを有しています。
4位BIC(フランス)は「(燃料電池が受け取る水素の圧力変動を最小化する)圧力調整バルブ」、5位東京ガスは「水素製造装置を有する水素ステーション」に関する特許が高い注目度となっています。
本調査の総合力上位5社に対し、総合力の経時変化(権利者スコア推移)を図2に示します。現在トップのトヨタ自動車は、2007年以降に総合力が急伸しています。
図2:総合力上位企業の総合力の経時変化
図3、図4は、本調査の総合力上位5社について、要素技術別出願状況を示したものです(図3における円の大きさは件数に比例。図4における円の大きさは一定)。トヨタ自動車と本田技研工業は、1990年代における「燃料改質装置」や「水素ガス生成システム」など「【4G140】水素、水、水素化物」分野への出願から「水素貯蔵装置」など「【3E172】ガス貯蔵容器;ガスの充填・放出」分野への出願にシフトしており、燃料電池搭載車両における圧力容器など、燃料電池自動車の国内市場導入に向けた特許出願が増加しています。
日本製鋼所とBIC(フランス)は、「水素貯蔵材料」や「流体貯蔵構成材の製造方法」など、「【4G140】水素、水、水素化物」分野への出願が続いています。東京ガスは「水素分離型水素製造システム」や「水素ステーション」など様々な要素技術分野への特許出願を行っています。
図3:総合力上位5社の要素技術別出願状況1
図4:総合力上位5社の要素技術別出願状況2
本分析の詳細については、定型レポート「水素貯蔵・圧縮関連技術」に掲載しています。
(注1)http://www.meti.go.jp/press/20110113003/20110113003.html
(注2)http://www.enecho.meti.go.jp/topics/hakusho/2013energyhtml/3-6-2.html
(注3)水素ステーション運営用の制御技術に加えて、燃料電池搭載車両本体の水素貯蔵技術を調査対象としています。
(注4)総合力の評価では、個別特許の注目度を得点化する「パテントスコア」を企業ごとに集計し、そのうち分析母集団における平均点以上のパテントスコアの値を集計しています。平均点以上のものだけを集計している理由は、パテントスコアが低くても件数が多いことによって総合力が上がってしまうことを防ぐためです。
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